ゲーメストムック本にあったナッシュの生死

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『ZERO』制作当時のインタビュー記事にナッシュのエンディングについて触れられていた。
今回はゲーメストムックでの制作者の言葉をまとめる。
名前が出る人物はプランナーを担っていた船水紀孝氏と村田治生氏。村田氏はシナリオやセリフの担当が多く、あの珍妙なソドム語を作った人。
当然ながら『ZERO』のエンディング内容のネタバレあり。そういうのがイヤな人は注意してください。

ゲーメストの記録

今はもうない新声社の、アーケードゲームを専門にあつかった雑誌の『ゲーメスト』。
誤植で有名かつ伝説的な雑誌である。ネットミームになっている「インド人を右に」の発生源。
そのゲーム雑誌にストシリーズも特集されていた。
内容は攻略情報が多い。攻略以外にはゲーム内に現れない公式イラストやショートストーリー,制作者のインタビュー話も載るときがあり、設定資料集のような役割も持っていた。

ZERO1のムック本

ゲーメストムック Vol.16『ストリートファイターZERO』にはゲーメストの記者が『ZERO』制作者に取材した話が載った。
その191ページにあるナッシュの話はこうだった↓。

ゲーメスト ナッシュは結局生きているんですか?けっこうふくみのあるエンディングだったんですが?
船水 最初こちらで考えたのは記憶喪失になって行方不明になってしまう、そうなったら死んだようなもんだろうっていう感じのものだったんです。とにかく殺したくなかったんですね。ただ生きてると断言しているわけではなくてちょっとそこらへんはボカした感じで。

ナッシュを殺したくはないけど『ストⅡ』のガイルに復讐鬼設定がある手前、生きてることにするのもなんだかな、の落としどころが『ZERO1』の結末だったようにわしは解釈した。
『ストⅡ』ガイルの設定について知りたい人は説明書の記述をまとめた過去記事どうぞ↓
もっと読むガイルの紹介文の変遷─ストⅡから2003年の出版物まで

同書のEND内容への記者コメント

同じムック本に、END絵とボス出現メッセージ(戦闘前セリフ)とエンディング中のセリフが載るページがある。
『ZERO1』ナッシュENDのあらましは、ナッシュが単身でベガを倒したあと、仲間に連絡を取る最中にベガから不意打ちを食らって生死不明になる、という状況。
213ページの、ナッシュのEND内容についてのゲーメストの記者が寄せた感想は次の通り。

ガイルの立場上、悲劇にならざるを得ないナッシュ。好キャラクターだけに残念だね。

記者もガイルのバックボーンを理解したうえで『ZERO』制作者の意図を汲んだ模様。

当時の読者の人気指標

『ZERO1』ナッシュENDへの記者コメントにある”好キャラクター”。
その評価を裏付けるデータが次の項目で触れる『ZERO2』ムック本の読者アンケートにあった。265ページに掲載。
好きなキャラクター(全18キャラ)でナッシュは4位を取れていたので当時は人気があった様子。嫌いなキャラクターでは13位で嫌う人も少ないほうだったらしい。
同じ傾向を持つのが主人公のリュウ(好き2位:嫌い16位)と『ファイナルファイト』主役なガイ(好き5位:嫌い14位)。

同作のナッシュにはわしの感性だと「きみやっぱり悪役なんじゃ?」と感じる正義のヒーローは言わないような勝ちセリフもあったものの、当時のプレイヤーに不快感はさほど与えてなかった模様。
じつは『ZERO2』までは春麗やさくらも一部性格の悪そうなセリフがあったりした。そういうのが受け入れられた時代だったのかもしれない。『ZERO3』ではオミットされた部分。

せっかくなので証拠画像貼り付け。好きor嫌いの両方で上位をとるさくらと、どちらのアンケートでもビリ争いするサガットが対照的。

『ZERO2』ゲーメストムックの人気投票

”やっぱり悪役なんじゃ?”という疑いについて引っかかった人は過去記事を読んでみてください↓
もっと読むZERO2プレイ時の印象から受けた間違ったナッシュ像

ZERO2のムック本

ゲーメストムック Vol.30『ストリートファイターZERO2』も記者が制作者に質問をするコーナーがあった。
P268~269の、インタビュー記事の一部↓。

ゲーメスト ナッシュのことなのですけど、毎回毎回ナッシュはえらい目に遭っているなあと思うのですが。
村田 ローズもなのですが、そういうニュアンスを持たせただけであって、死んでいるわけではないのですよ。前回もそういう風にとられてしまったので、今回は滝壺程度なら、落ちたくらいで死なないだろうということなのですけど(笑)。
ゲーメスト 結構きびしいような(笑)。他のキャラと比べて、なんでナッシュはというのもありますよね。ローズとか今回風呂入ってますし。
村田 最初はガイルの設定にすごく気を使っていたので、ゼロ3でガイルを出したらストーリーをぶち壊すんじゃないかとか言われていますしねえ(笑)。

P269には〆のプレイヤーへのメッセージを求められた際に、村田氏が以下の念押しをしていた。

村田 え~と、ナッシュは死んでません(笑)。というのはさておきエンディングを新しくしたので一通りプレイして下さい。

滝壺程度なら死なないという謎の滝壺のクッション性能orナッシュの耐久度に対する信頼の厚さ
ナッシュの耐久度については、着ているベストの防弾性が高い、との設定が電波新聞社より発売された『ALL ABOUT ストリートファイターZERO3』に載っていた。
防弾チョッキを着ていれば銃弾くらってもセーフ的なやつだろうか。実際は弾を受けると衝撃があって苦しいし痛いらしいが。

再び同書のEND内容への記者コメント

『ZERO1』のムック本同様にエンディング関連の情報が載るページがある。
『ZERO2』ナッシュENDの概略は、(前作から反省したのか)打倒ベガの同志を募っていたナッシュがベガを追い詰めたとき、ナッシュを手助けしてくれるはずのヘリから銃撃を喰らい、滝壺へ転落して生死不明になる。
P283の、ナッシュのEND内容についてのライターのコメント。

カプコンさんの企画者曰く「ナッシュは死んでいません」とのこと。前回のローズと同じく悲劇から救われたキャラになったけど、ヘリコプターの機銃で撃たれたり、滝壺に落とされたりとさんざんだね。

この”カプコンさんの企画者”は村田氏のことだと思われる。インタビューで二回もナッシュは死んでないと発言していた。
『ZERO2』ローズENDはたしかにローズが元気にしているのだが、ナッシュは『ストⅤ』の設定を抜きに考えても救われている感じがあんまりしない。
仮に体のほうは無事で済んでも、仲間だと思っていた人達に裏切られた事実は変わらない。精神面がズタボロになりそうな気がする。

メンタル安定の筋道

同じ志をもった仲間が敵に寝返った、と考えた場合にナッシュのメンタルはヤバイことになりうる。『ストⅤ』もそれに近い思考で人間不信になっていた気がする。
そうならないための方策は、最初からベガの手下がナッシュの仲間にまぎれこんでいた、という路線でいくと無難そう。

裏切りの結末は同じでも印象は変わる。
最初は同じ考えを持っていた人が途中で心変わりするのはつらい。
それでへこむパターンもあれば「人間は醜悪」のような魔王めいた発想に行き着くのもある。
実例を出すとネタバレになるので出しにくい。わしの想定は『LAL』のキャラ。
「『LAL』ってなに?」という人は過去記事を読んでみてください。肝の部分は書いてないので詳細はゲームプレイなり動画視聴で↓
もっと読む16.SFCライブ・ア・ライブ【アドベントカレンダー2024】

はじめから騙すつもりで敵が懐に忍び込んできたなら、その騙し方が上手かった,敵が天晴あっぱれ、と認められれば精神的ダメージは軽くなる。
無傷では済まないけれど身内の裏切りよりはよほどマシ。
裏切られる側の不手際は詐欺師を見抜けなかった一点に絞られる。行動理念や人柄の優劣は無関係な結果になる。
人それぞれに感じ方はあると思うがわしはそういう認識。

こんな創作メソッド的小話をしても『ストⅤ』でナッシュの将来は決まったので意味はない。『LAL』宣伝とタイミングがよかったので書いた。

余談:ZERO3ムック本(制作者インタビューは無し)

ゲーメストムック Vol.159『ストリートファイターZERO3』には制作者への取材記事はなかった。
その代わりに『ZERO3』に参戦する神月かりんを生み出した漫画家の中平正彦氏のインタビューが掲載され、かりんのことも大きく取り扱われた。
かりんが登場する漫画『さくらがんばる!』が新声社の『コミックゲーメスト』に連載されていて、その同じ系列の雑誌にもコーナーが設けられたのである。

中平氏の影響力

自社商品の紹介目的の掲載だったのかもしれない。
ただ中平氏の描いた漫画の内容がゲームに逆輸入される部分があった。
かりんのほかには殺意の波動に目覚めたリュウも中平氏の漫画が初出。リュウの話はタイトルが『ストリートファイターZERO』のほうの漫画に載る。
それまでストシリーズのムック本の表紙絵をカプコンのデザイナーが担当していたのを、このときは中平氏のイラストで飾ったのも、カプコン側の並みならぬ敬意の表れだったりするかもしれない。デザイナーさんが忙しかっただけかもしらん。

わし個人の感覚でいうと、中平氏の功績の中でもっとも大きいのはさくらだと思う。
もともとさくらは人気があったけど嫌う人も多いという扱いの難しいキャラだった。ソースはこの記事のサムネイルにもなっている画像。
中平漫画は(意図したか不明なものの)さくら嫌いが減る工夫が凝らしてあったとわしは断定している。この件は別記事でくわしく解説したい。

その後の本家シリーズのナッシュ

ナッシュは『ストリートファイターⅤ』で復帰した。
『ZERO2』のEND内容を引き継ぎ、滝壺に落ちて死んだことになっていた。
そこから蘇生を受けて『ヴァンパイア』のビクトルチックな改造人間になった。
いちおう復帰はできたけれど一度は死体になった身。長く活動できなさそうな状態に陥った。
これはおそらく『ZERO』の主要な制作者が想定していたナッシュとは違う未来を迎えた。船水氏は退社したし村田氏は別のゲームを担当しているので仕方のないこと。

その後のストシリーズの制作者が、ナッシュの生存を望んだ先人たちの意志を……継ぐのか放置するのか今のところわからない。
『スト6』でベガ参戦確定後にゼネストを見た感じ「これも生存の前振り?」と思った箇所がある。

コーリンが信じる予言書

どこのだれが残した本当に信頼できる予言書なのかわしはわかってないが、作中でベガを倒すのはナッシュだと予言されていたそう。だからコーリンが最初はナッシュに世話を焼いていた。
『ストⅤ』ゼネスト内ではベガを倒したのはリュウであり、予言が外れたことになったようだった。
しかし『スト6』でベガが復帰。ベガの打倒はできてなかった。
もしまだ予言の効力が続いているなら、ナッシュもベガを倒すまで死なないということになるのか?

予測不能な先行き

ナッシュはゼルダシリーズのリンクのように、何度でも魔王ガノンドロフと戦う勇者めいた男なのか。
急にそんな重大そうな設定を生やすにふさわしい格を持っているのだろうか?
最初は確定で死んでいた名前だけの脇役に。一時期はガイルの代役的扱いだったルイージ枠に。『TEPPEN』のガンスパイクネタでハブられた参謀に。

”『TEPPEN』のガンスパイクネタでハブられた”をまだ知らない人は過去記事を読んでみてください↓
もっと読むカプコンのオールスターゲームなTEPPENのガンスパイクネタ

”ガイルの代役扱い”はまだ記事を公開してなかったです。そのうちやります。

今後お話の展開がどういうふうに転ぶのかわしには読めません。
予言書とやらの信憑性が不透明、かつその記述の読解が人によって分かれるようなあやふやなものかもしれない。そこんとこはどうにでもなりそう。

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