ガイルの紹介文の変遷─ストⅡから2003年の出版物まで 2024/8/31 B! P L この記事は『ストⅡ』のお馴染みのガイルの紹介文についてまとめた。 いつまでも変わらない信頼と実績のある待ち軍人ながら、紹介文は一部変化を遂げていく。 おもな変更点はナッシュが死んだと書くかそうでないか。 注目するポイントはナッシュが登場しない作品においてナッシュをどう扱うか、にある。 ガイルは顔(と髪の幅)の広いキャラゆえにいろんな紹介文が点在する。管理人が確認できた範囲で載せる。 断りを入れておくと『ZERO』ではナッシュが存命中なのでそのガイルの説明は対象外とする。 長くなったので分割。続きはガイルの紹介文の変遷─ストⅣへ。 ## 原点のストリートファイターⅡ アーケード稼働時期は1991年3月。 ↓の画像元はSFC版の『ストⅡ無印』の説明書。SFC版は1992年6月10日発売。 前回の記事では画像なしで掲載済。同じテキストを貼り付けるのは芸がないと思って今回は画像で紹介。 この内容がベースとなって、その後の作品群に受け継がれる。 ところで文中に”男”と書いて”やつ”と読ませるルビがある。 普通に”おとこ”にしなかった目的はよくわかりません。従来の漢字に別の読み方をあてることが流行ってたのかな? ### ストリートファイターⅡダッシュプラス もとは『ストリートファイターII' TURBO』(稼働時期は1992年12月)でメガドライブ版だと上記タイトルに変更された。 ↓は『ストⅡ’プラス』説明書の紹介文。メガドラ版は1993年9月28日発売。 > 友の復讐のために、軍も国も愛する家族さえ捨て、宿敵ベガを追い続ける。冷静な判断力がスキのない動きをうみだす。 必殺技を組み込んだコンビネーション攻撃を得意とする。 まだ『ストⅡ』の世界観なのでナッシュは死んでいる。 ### スーパーストリートファイターⅡ アーケード稼働時期は1993年9月。 ↓は『スパストⅡ』説明書の紹介文。SFC版(とメガドラ版も)は1994年6月25日発売。 > 部下であり、親友でもあった”ナッシュ”の復讐を果たす為、軍も国も、愛する家族さえ捨てて、ベガを追い続ける。 まだまだ『ストⅡ』の世界観なのでナッシュは死んでいる。 ここで”部下”という新設定が加わった。しかしこれっきり。 『ZERO』では二人とも中尉設定で同年代なふうに描かれる。外見はガイルのほうが年上っぽいがそこは個人差があるところなので軽く受け流そう。 よくある親友といったら年齢や立場が近い相手が多いものの、それを部下にする発想はどこからきたのか不明。 裏付けのない部下設定の元ネタ―『ブラック・レイン』微ネタバレ有 1.ナッシュの海外名はチャーリー 2.制作者は映画や漫画の影響をよく受けていた 3.ガイルの復讐鬼設定 この3つを組み合わせたら、1989年のアメリカの映画『ブラック・レイン』が関係する? と管理人は思っている。 『ブラック・レイン』は主人公の刑事ニックがチャーリーという同僚とともに捜査する最中、チャーリーが殺され、その復讐に燃える物語。 どのへんに部下要素が? というと主演のマイケル・ダグラスとその同僚役のアンディ・ガルシアは12歳差で、チャーリー役のほうが若い。 作中の細かい階級をわしは把握していないけれどこちらのチャーリーには部下感がある。 日本のドラマでいう『相棒』の杉下右京役の人(水谷豊)と亀山薫役の人(寺脇康文)が10歳離れていたのと似た感じ。 この映画は日本アカデミー賞にも本場のアカデミー賞にもノミネートされた話題作だったそう。 日本の有名な俳優が出演していたのもあって当時の日本人も知っていた作品。 誰がナッシュの名前をチャーリーにしようと決めたのかは情報がなく、またいつ部下設定を思いついたのかもわからない。 もしかしたら映画がきっかけかもしれない。ぜんぜん違ったらごめんなすって。 ## ストリートファイターEX アーケード稼働時期は1996年11月。 ↓はたまたま見れた『ALL ABOUT ストリートファイターEX』の48ページに記載された紹介文。出版時期は1997年3月。 > 親友の無念を胸に秘める軍人がいた。 ナッシュの死を知ったガイルが、心に深く刻みつけたもの。 それは、復讐の2文字だった。 愛する妻も娘も捨て、友の遺志によってのみ生きようとするガイル。 ベガ、シャドルー。 遺された言葉に駆り立てられ、ガイルは闘いへおむもく。 そこは銃音も爆音もない、静かなる戦場。 友が見た”真実”は、その果てにある。 確実にナッシュが死んだことになっている。 こちらはアリカ制作の外伝的作品で時系列はわからない。 リュウが赤色のハチマキを巻く+まだ『ストⅢ』がリリースしていない時期なのでたぶん『ストⅡ』と同時期。『ZERO』だと白ハチマキ。 『ZERO2』初出のさくらもセーラー服で『EX plus α』に参戦するけどきっと『ストⅡ』期。 『ZERO』が1989年~1990年舞台ならさくらはまだ現役高校生。1994年舞台と噂の『ストⅣ』はどうしようもない。『スパⅡ』の『ストⅡ』+2年経過設定が後に響いてる気がする。 他にもEXシリーズはあるが資料不足につき一作品の紹介で終える。 ## ゲーメスト増刊号のSS 月刊ゲーメストのvol.77、1992年9月号増刊に『ストリートファイターⅡダッシュ』の特集が組まれ、ボスキャラ含めた12名のショートストーリーが掲載された。 ガイルの分は19ページにあり、最初の見出しで早々に”戦友の死”と書かれる。 内容を読まなくても本来の目的は達成できる。でも一応転載。後半部分は折り畳みにするので必要な人だけ閲覧していってください。 ところでこの掲載雑誌も出版社ももう潰れた状況で誰がこのテキストの権利を持ってるんでしょう。カプコン? > ■戦友の死 オレが駆けつけた時、すでにナッシュは虫の息の状態だった。オレはナッシュの体を抱き起こしつつ、おそらくこれが最後になるであろう彼の言葉に全身全霊を傾けた。 「ベガという男に気をつけろ…ヤツはサイコパワーを自在に…ぐふっ…」 それだけ言い残すと戦友は逝った。 ナッシュの体には今までに見たことのないような傷跡が無数に残っていた。それは火傷のように無残にただれたものであったが、傷口の中心部はまるで鋭利な刃物でえぐられたようにも見え、凶器の確定は不可能だった。 だが、オレには分かっていた。これは拳によるものであり、しかもそれには相当の憎しみを持った男から放たれたのであろうことを。これが多分ナッシュが死に臨んで言い残したベガという男のサイコパワーの威力なのだろう。オレはその傷跡を見ながらふつふつと沸き上がってくる怒りを、ベガという今は形なき存在にぶつけていた。そしてナッシュの仇を討ち、ベガを必ず吊るしてみせることを誓って戦友のなきがらを後にしたのだった。 『ストⅡ'』のガイルSS後半 ■仇は闇の帝王 手がかりは「ベガ」という一言だけであったが、意外に早くその男に行き着くことができた。 ヤツは裏の世界ではかなりの有名人であるらしく調べれば調べるほど、その闇の世界での力の強大さが分かってきた。ヤツが統括する秘密組織は合衆国はおろか世界中に根を張り、世界をも征服しかねぬ勢いを持ちつつあったのだ。 ナッシュはそれについて知りすぎてしまったために消されてしまったのである。 オレはヤツに悟られぬよう密かに行動した。そして苦心の末、遂にナッシュ殺しの動かぬ証拠をつかんだのである。「これでやっと、戦友の仇が取れる!ヤツを地獄へと送り込める!」。 その証拠をつかんだ時はそう思った。だが、オレは甘すぎた。オレはステイツの正義を、そしてパワーをあまりにも信じすぎていたのである。 やつを吊るすはずだった裁きの槌は、瞬時にしてオレを叩くものにとって代わっていた。ベガによって抱き込まれた法廷では、黒を白に変えることなど何の造作もないことだったのである。オレに罪こそ問われなかったものの、二重の敗北にオレの精神はそれ以上のダメージを受けていたのだった。 オレは今でも思い出す、法廷を出る時のベガの自信に満ちた顔を。あの瞬間、オレは心に決めたのだ、誰の手も借りずこの手で直接ヤツを葬ることを。ヤツの頭の中にはオレのことなどすでにないのかも知れない。だが、いつか必ずこのガイルにとどめを刺さなかったことを後悔させてやるのだ。 だがベガに近づく方法は唯ひとつしかない。それはヤツが主催する武闘大会に出て、ヤツの目にとまることだ。このオレの強さを見せつければ、ヤツはきっと出てくる!しかしその大会行きのキップを手にするにはやはりそれなりの男になる必要がある。ヤツがどうしようもなく闘いたがっているくらいの男になる必要が…。 数日後、オレは旅支度を整えると独り旅に出た。オレを縛りつけていたもの、友を、軍を、ステイツを、そして愛する妻や娘さえも捨て去って。 おそらくこの旅には得るものも失うものもないだろう。しかしもう後戻りはできないのだ。 戦友の仇を求めるオレの闘いはこうして始まったのである。 折り畳みにした部分にはガイルとベガに面識ができた場面が綴られる。 ゲームのほうでもガイルがベガに掴みかかって「ベガ おれを、わすれたとは いわせないぜ」と言うセリフがある。そこと繋がるようになっている。 こういった背景をもともと考え付いていたがゲームでは表現する余裕がなく、ゲーム雑誌でやっと形にできたのかもしれない。後付けかもしれない。そこは知らんです。 この短編のもととなる世界観が『ストⅡ』なのでナッシュが確定死している。 ナッシュ死んでばっかやん、と思うのもここまで。 ## 『ZERO』リリース後の出版物の書かれ方 『ZERO』が世間に浸透したあとの書籍から変化が表れる。 ### 『カプコンジェネレーション 公式ガイドブック』 1999年3月の刊行物。124ページに『ストⅡ』ガイルの紹介文あり。 > アメリカ空軍に所属する軍人で、階級は少佐。秘密組織シャドルーを調査中に消息を断った親友ナッシュを探すため、妻子を捨てシャドルーの首領ベガを追う。 マーシャルアーツ(米版キックボクシング)の使い手である彼は、戦いの中では常に自分のおかれた状況を冷静に分析し、決して取り乱すことがない。的確な返し技で相手を封じ、機を見て猛烈な攻撃を叩きこむ。そのクールな戦いぶりは、まさに戦闘マシンといってさしつかえないだろう。 ”**消息を断った**”と生死不明な書き方になった。 『ZERO1』~『ZERO2』のナッシュと『ZERO3』のガイルのエンディングに合わせた模様。 のちのちナッシュが心身ともに変貌した状態で復帰する『ストⅤ』は『ZERO2』ナッシュENDの展開が採用されたお話になっている。 ### 『ストリートファイターエターナルチャレンジ 永遠の挑戦者たち』 2003年6月の刊行物。191ページにガイルの紹介文あり。 > 行方不明のナッシュを捜し、調査を続けるガイル。その調査の末、ナッシュの行方不明には悪の組織シャドルーが関わっていることを突き止める。初めは合法的にシャドルーの総帥ベガを追い詰めるつもりであったガイルだが、法廷もベガの手に落ちていることを悟るや、単独でベガを倒すことを決意する。 愛する妻と娘を捨ててまでの決意……。復讐の鬼となったガイルは、ベガを追い詰めるべく世界を旅する。 同ページに使われた画像は『ZERO3』のもあったが説明は『ストⅡ』のもの。『ZERO3』ではまだ妻子を捨ててない。 ゲーメスト増刊号のSS(当記事の書き方だと後半部分)の設定も拾った文章になっていて、この時点でのガイルの人物紹介の完成形になったとわしは思う。 『ZERO』のナッシュの生死について想像の余地を持たせた表現と『ストⅡ』のガイルの経歴が合体した。 それが後続の作品に繋がる……──? 続きはガイルの紹介文の変遷─ストⅣへ。 Street Fighter #ガイル #ナッシュ