ガイルの紹介文の変遷─ストⅣの公式サイト&小説&ムービー 2024/9/6 B! P L ガイルの紹介文の続き。前回は『ストⅡ』~2003年の出版物の紹介文を載せた。 ここでは格ゲー業界全体が激動の衰退期を経たのち、蘇った『ストⅣ』のガイルのテキストを説明する。 アーケード稼働時期は2008年7月。 物語の舞台は『ストⅡ』から3年後、『ストⅢ』の3年前……だがあとあと(※2018年出版物で)年代不詳となったそう。さくらが女子高生な姿なのをツッコまれすぎてめんどくさくなった? 『ストⅡ』期は死んだ死んだと書かれ続けたナッシュがプレイアブルキャラに昇格した後、消息不明といった説明に変化した。その後の、初のシリーズ作品である。 さあ彼はどんな扱いになったのか。『ストⅣ』における説明の仕方に注目する。 ## 公式サイト紹介文 現在は消失した公式サイトには次の紹介文があった。↓はWEBアーカイブから確認を取ったもの。 https://web.archive.org/web/20130621191030/http://www.capcom.co.jp/sf4/IV/ac1.html >米空軍に所属する軍人。 親友ナッシュを殺したベガを討つため、 復讐を誓った。 マーシャルアーツに独自のアレンジを加えた技は、 あらゆるものを切り裂くといわれる。 複数の事件の裏にシャドルーの暗躍を疑い、 春麗と共に立ち上がる。 ………… **ナッシュがまた死んでますね**。 ”消息を断った”や”行方不明”という文言は無し。 『ZERO』では常に直接的な死の表現を避けてきた男が、ここへきて『ストⅡ』時代に戻った。 『ZERO』はパラレル世界だと言われてきたので『ZERO』経由の設定は無しになったか? 結局はナッシュ死亡のままでいくのか? と思ったら違う表現も同じ公式サイトにある。 ## 公式SS 過去に公式サイトに載っていたノベルズは以下の書き方。 文字数は千字強ですこし長いので折り畳み表示。 転記後に別途必要な部分だけ抜粋しておきます。閲覧はご自由に。 https://web.archive.org/web/20140111174129/http://www.capcom.co.jp/sf4/IV/begining_gui.html 『ストⅣ』ビギニングPrologue12(ガイル) 「面白い話はない?」 唐突な声に目をやると、助手席に座っている春麗がふわぁ、 というような声を上げて口を開けていた。 「……これ、さっきから5回目のあくびなの。 話してないと寝ちゃいそう」 つられてあくびをしそうになって、ガイルは苦笑した。 窓の外を見ると、空の色が明るくなり始めている。 とうとう徹夜だ。 「確かに。 俺たちの稼業には付き物とはいえ、待っているだけってのは眠くなるな」 「何かないの?軍隊生活の面白話とか」 「さあな。 3分派手にやって、3時間報告書を書く。 その繰り返しだ。 ICPOだって似たようなもんだろう」 「そうだけど…、でもいくら鬼のガイル少佐とはいえ、 昔は友達とバカなことくらいしたでしょう? そうだ、友達といえば、ナッシュとはどこで知り合ったの?」 「言ってなかったか?牢屋だ」 「牢屋?…それは変わってるわね」 「まだ若造のとき、ヘマをして敵に捕まったことがある。 そのとき救出に来たのが、ナッシュだったんだ」 春麗はへえ、と目を丸くして、それから吹き出した。 「なんだ?」 「ふふ、ごめんなさい。 聞いておいて悪いんだけど、 あなたたちの若い頃って想像つかなくて」 ガイルは肩をすくめた。 「悪いが別に普通だったぞ。 …そうだな、あいつは人の表情や仕草を読むのが上手くて、 カードじゃ誰も勝てなかった。 俺はダーツで取り返してたが…」 話していると、あの頃溜まり場になっていたバーの光景が浮かんでくる。 周囲で酔っ払いがどんな騒ぎを起こしていても、 眉ひとつ動かさずにカードを配っていた男――。 その姿を思い出すのは随分久しぶりだった。 もうずっと長い間、ナッシュのことを思い出すのは、 彼が行方不明になったときのことばかりだったのだ。 ふと、かすかに音が聞こえた。 「来た」 呟くと、隣の春麗も頷く。 眠気も疲れも、蘇りかけた昔の風景も、すべてが一瞬で消え失せる。 ガイルは大きくなるエンジン音だけに耳を澄ました。 やがて一台の車が姿を現し、目の前の建物へと吸い込まれていく。 ちらりと見えた横顔は、一晩待ち続けた男のものだった。 「間違いない、ヤツだ」 二人は車を降りて、建物を見上げた。 「つまりここがS.I.N.の秘密基地というわけだ。 準備はいいか?」 「もちろん」 歩き出した春麗が急に立ち止まる。 ガイルは振り返った。 「どうした、春麗」 「ねえ、さっきの話面白かった。 これが終わったら続き聞かせてね。 若い頃のバカの話」 いたずらっぽく言って走っていく後姿を見送って、ガイルはにやりと笑った。 「そうだな」 呟いて走り出す。 たまにはあの日々を思い出すのも悪くない――。 ショートストーリーでは”**行方不明**”扱い。 シリーズ中断期に語られた説明と同じく、生死が判明していない。 キャラ紹介の文章とニュアンスが丸っきり違う。これだけでは五分五分。 一番重要なゲーム内の表現はどうなっているか。そこで判断。 ## ゲーム内アニメムービー 作中にアニメのムービーがあり、 ナッシュが**行方知れず**な扱いになっていた。 動画を貼るのは気が引けるためソースは不記載。原典に当たりたい人は現物をプレイするか動画サイトで検索してください。 軍内では死亡者扱いだけど遺体が未発見なのでガイルは諦めてない、といった経緯。 肝心のゲーム内容こそが正しいはず。そっちを信じよう。 ## 表現のズレ ゲーム内のお話と公式の紹介文に食い違いが起きた。 本当なら以上3種の情報源のうちもっとも修正しやすいのが公式サイトの紹介文である。 無印→『スパⅣ』→『ウルⅣ』にプラットフォームが移り変わるたび、サイトのアドレスごと刷新された。 その時に手直ししようと思えばできたはず。しかしリテイクは出なかった様子。 アーカイブには『スパ4』,『ウルⅣ』のテキストは残ってなかったものの攻略サイトには引き写しがあった。それを見るに無印の文章がずっと使いまわされていた。 制作者の中では整合性のとれる表現だったのかもしれない。 ガイルが勝手にナッシュは生きてるかもと思ってるだけで設定上は確定で死んでるなど。ノベルもムービーもあくまでガイル視点の描写である。 『ストⅣ』制作時に決定していたか不明だが、のちの『ストⅤ』ではナッシュが一度死んだことになっていた。 それか『ストⅡ』の設定が最重要になっていて、実情と食い違ってでも『ストⅡ』の要素を取り入れたいと判断されたか。 なんとなく『ストⅡ』が神聖視されたフシがある。 ### ストⅡ優先な設定群 『ストⅣ』は久々のシリーズ復活だったせいか随一の代表作『ストⅡ』に偏っていた。 初期メンツですでに『ストⅡ』勢が全員おり、その後の追加でも『スパⅡ』追加組は全員参加。 『ZERO』や『ストⅢ』勢はバラバラである。『スト1』も結局は『ZERO』枠の元とアドンという感じ。 『ストⅡ』キャラが定番枠になるのはいいのだが、ほかにわしが気になったⅡ仕様がある。 バルログの髪色とサガットの体重。 この二つはⅣより前から表現or設定にばらつきがあった。 『ストⅡ』の対戦時のバルログは焦げ茶色の髪であり、サガットの体重は78キロ。それを『ストⅣ』は踏襲した。 僭越ながら**二人のこの仕様は無かったことにしてもよかった部分**だとわしは思っている。 簡単に理由を明かすと前者は金髪描写が多かったこと、後者はあまりにファンタジーな設定体重だったこと。 詳細は別記事で紹介する。サガットの記事はできました→サガットの体重 ## ストⅣの仕様総評 制作者もファン層にも大きな存在だった『ストⅡ』。それは今後も揺るぎのないポジションで居続けることでしょう。 ガイルの紹介文もきっと偉大な『『ストⅡ』の設定を下敷きにした結果なのでしょう。 友の仇討ちにすべてを懸ける生き様にはカッコいいと言われること多々あり。 その悲壮感が共感や支持を集めるのでしょう。 受け手の関心を集めた仇討ち話の一例には漫画『うしおととら』がある。作中、妻子の仇を討つために生きた鏢ひょうは人気投票上位の常連だった。 大昔は『忠臣蔵』がもてはやされたように、日本人は仇討ちものを好みやすいところがあるのかもしれない。 ガイルの場合はゲームプレイ時の凶悪な戦法のせいで憎く感じる人もいるだろうけど、それはそれ、これはこれ。 ノベルズおよびムービーとの多少の違いがあったとしても、『ストⅡ』の謳い文句が客層に響きやすいと見込んだ……ということでケチはつけないでおきたい。監修不足とかそういうことじゃないんだ、たぶん。 ウケ優先で設定はその都度変わってもいい『キン肉マン』マインドでいこう。 ## Ⅱ要素が棄却された例 結論は出たが一応の反例を陳述してみた。 Ⅳには『ストⅡ』系列の設定が無視された部分もある。触れずにおくのはフェアでないと思うので列記。 名前を挙げるのは家庭用版の『ストⅣ』で追加されたフェイロンとキャミィの二人。 ### フェイロンの肩書き フェイロンはシリーズ初登場した『スパⅡ』ENDでアクションスターの地位を捨て、格闘家の道に進んでいた。 それを無しにし、アクション俳優のままでいる。なぜそうしたか、きっと想像がつく人もいるはず。 なにせ『スパⅡ』の頃から『ストⅣ』が出るまでにプレイアブルキャラ数は倍以上に増えた。 純然たる格闘家という要素だけではキャラ的な差別化が難しい。そういうのはもうリュウが占有している。 中華系の格闘家を見ても春麗は刑事、元は暗殺者、ユン&ヤンは街の自警を担うバックボーンがあり、それで個性を立たせていた。えっ、ダン? ダンは……賑やかし? 並みいる格闘家たちに埋もれないよう、フェイロンの俳優兼格闘家という他にない特徴が『スパⅡ』ENDとの整合性より優先されたとわしは思っている。 #### 先達の設定変更 ガイルは『ストⅣ』リリースまでの間に、ナッシュの死に目に会えていない方向に変わっていた。 春麗も『ストⅡ』で普通の女の子に戻るENDが正史扱いだったが『ストⅣ』では刑事を続行している。 主要キャラたる二人が軌道修正された状況下、フェイロンが俳優を続けるくらいなんでもない変更だ。 モデルになったブルース・リーは生涯俳優だったのでフェイロンも俳優なほうが似合うと思う。 また、フェイロンが俳優業を継続しているほうがお話が作りやすい。 『ポケファイ』で参戦は叶わなかったが、映画スターになりたいというフェリシアのENDに登場できた。普通の格闘家よりいろいろお得。 ### キャミィの口調 あんまり正当な変更理由が見つからない反例はキャミィ。 格好と所属は『スパⅡ』と同じデルタレッド。しかし口調は気の強い少女な『スパⅡ』路線と違う。 女口調でない代わりに『ZERO』(厳密には『カプエス』?)のシャドルー配下時代の男らしいものに変わった。 水色レオタードのキャミィの言動は洗脳下にある影響という設定(初出の『Xスト』はそう)であって自我を取り戻した状態では違う、という認識が過去には広まっていた。その事情が変わった。 #### 男口調作品が知れ渡る シリーズの中断期にキャミィは『ナムカプ』や『カプエス』等の他社出張をしていた。 その二つは『ZERO3』のシャドルー配下時代のキャミィとして登場していた。 『スバⅡ』のキャミィが登場する作品もSNK制作『カードファイターズ』のシリーズにあるが、『カードファイターズ2』ではZERO版のほうが全身絵を描かれていて高待遇だった。 たぶん出張をきっかけにZEROキャミィが知名度を上げており、『ストⅣ』もそっちに寄った。 またはⅡ期のキャミィは女口調だったことに馴染みのないスタッフが作ったのかも。 キャミィが女言葉をよく使うゲームは『スパⅡ』をのぞくと『ガンスパイク』か『ZERO2'』のドマイナー作品に限られてくる。圧倒的不利。 知名度が足りないうえに作中のキャミィのセリフ数は少ない。 セリフを見る条件も厳しい。『ガンスパイク』のペアENDを網羅できた人はそうそういないと思う。 SRPGの『ナムカプ』およびキャラの組み合わせによるセリフ数が潤沢にある『カプエス』のほうがキャミィのセリフは多く、人物像がはっきりわかりやすくなっていた。 シリーズ中断を経て新入りスタッフが増えた環境だと わかりやすいもの がとっつきやすかったんでないかと思う。 #### 現状の支持と要望 すでに『ストⅤ』も『スト6』もキャミィは男口調で通している。ずっとこのままなのだろう。 そのことに不満があるわけではない。 春麗と組んだ『ストクロ』を見ると、二人とも女言葉を使ったらセリフの区別がやりにくそうだと思った。 キャミィはほかにもユーニやディカープリ等の女子と接点が多い。 女性陣の輪の中心になる人を男らしい感じに据えておけばキャラ分けがきっと楽になる。 けれどもわし個人が持つキャミィ像は小悪魔的な少女。今でもそれが変わらない。 言い換えれば現行のキャミィに違和感はある。 違和感があることと不満を訴えないことがイコールにならないと考える人もいそうだと思う。 このへんの気持ちを説明するために別ゲーの話を記事にする予定。格ゲーとは毛色が違う題材になるので興味ない人は無視しても可。テーマは『天地を喰らうⅡ』の1面ボスを飾ったあの人のコエテク作品の話。 女らしい口調のキャミィもまた出てきたらいいなと思う。さりげなく女口調だった『NECO DROP』の続編とか。 ついでに本編では行き場のないナッシュも登場させてやってほしい。 『ガンスパイク』は二人ともいるのでおあつらえ向き。 『ストⅤ』のスタッフに『ガンスパイク』好きそうな人がいたのでなにか起きないかと思う。 オンライン対戦とか金かかることはしなくていいから。『ガンスパイク』の制作者はオンラインのシステムも盛り込みたかったそうだけども。 わし個人はどっちでもいいです。でも『スプラトゥーン』のサーモンランみたいなPvEゲームならプレイするかなぁ。鮭畜なので。 Street Fighter #ガイル #ナッシュ