ナッシュの服装と他社の緑ベスト格闘家

B! P L

ナッシュは『ストリートファイターZERO』(1995年リリース)の新キャラとして個性的な外見で参戦していた。
前髪のモデルについての記事はナッシュのデザインとジョジョの奇抜な髪型人物で公開中。
今回は服装、特にベストの話をする。

ナッシュのベストと他社の軍人キャラ

この記事を開いていてナッシュを知らない人はいないだろうけれど、『ZERO』時代のナッシュのファッションについて文章で説明する。
彼は伊達眼鏡と腕時計と深緑色のカーゴパンツとブーツを身に着け、首からドックタグを下げ、肌着無しでベストを羽織る。
ベストはダウンジャケットのように厚みがある。『ZERO3』の資料集で明かされた設定上は防弾性のある素材でできているらしい。

袖なしダウンジャケットあるいはそれに似たベストを羽織るキャラクターデザインは他社の軍人キャラにも見られた。
SNKの初期『KOF』のラルフ・ジョーンズクラーク・スティル,ザウルスの『ショックトルーパーズ セカンドスカッド』のルル,テクモ(現コーエーテクモ)の『DOA』の初代~2DC版までのバイマンなど。

バイマンは『DOA3』以降もベストを着るが、ダウンジャケットとは違う感じのベストになっていった。たぶん3DCG技術の向上により表現の幅が広がった影響。

ベストの元ネタはフラックベストか

制作者が被らない複数のゲームで軍人キャラの上着が似たり寄ったりなデザインになった。
元ネタがありそうなので似ている軍需品をさがしてみた。
そうして出てきたのがフラックジャケットまたはフラックベストと呼ばれる防具。
日本語のページがないが、写真付きで説明が載る英語のWikipedia→Flak jacket - Wikipedia
ゲームの画像を見る時によく世話になるFandomにも記事があった→Flak Jacket | Rogue State Wiki | Fandom

「flak jacket or flak vest」をグーグル翻訳にかけたら「防弾チョッキまたは防弾ベスト」と訳された。しかし防弾チョッキのことを英語では一般的に「bulletproof vest」と呼ぶそう。
現在の防弾チョッキは最初から前が閉じている場合が多い気がするが、こちらは普通の上着と同じような前開きだった様子。

軍人キャラの記号の一種

軍人キャラの格好といえば普通に軍服(例:『KOF』ハイデルン,漫画『キン肉マン』ブロッケンJr.)だったり、
上の服の裾が出てなくてツナギのような上下のデザインが一緒な服(例:『龍虎の拳2』ジョン・クローリー,『マーシャルチャンピオン』ボビー)だったり、
あるいは下はズボンで上はラフなシャツ(例:ガイル,『魂斗羅』ビル・ライザー)だったりする。
それらに加えてベストのタイプもあったようである。

キャラクターのデザインを起こすとき、軍人や戦闘員っぽさを出したいけどカッチリした軍服は避けたい,でもシャツだけは寂しい、などと考えた場合に、カジュアルなダウンベストにも見える服が選ばれやすかったのだろうか。
または後に解説するタクティカルベストにしたかったが映像技術の限界により、特徴がシンプルなベストに落ち着いたか。
これもいわゆる、忍者キャラに鎖帷子くさりかたびらがわりの網シャツを着せるのと似たような記号だったのかもしれない。

まあナッシュはシャツないんすけど。半裸軍人(例:キャプテン・サワダ)もぼちぼちいたのでその亜種なんでしょうか。普通の半裸より変態度は高まるが。

他作品の素肌ベストの人物

わしはナッシュのほかに半裸にフラックベスト的な上着を羽織る軍人キャラを知らなかった。
AIのパープレキシティに尋ねてみたら格闘ゲーム『モータルコンバット』のジャックス(Jax)を教えてくれた。米軍特殊部隊少佐な黒人だそう。
初出の『モータルコンバットⅡ』(1993年リリース)だと半裸スタイルで、その後のⅩ(2015年リリース)では半裸ベスト。

そのほかは当記事既出のラルフ・ジョーンズおよびクラーク・スティルが『KOF』の12~13で素肌にタクティカルベストを着るワイルドな格好をした。
まだ公式サイトが残っていたので『KOF XII』キャラ紹介ページを貼る。クラークだけ。ラルフはページ左側のリストから飛んでください。→クラーク・スティル|キャラクター紹介|THE KING OF FIGHTERS XII
3Dポリゴンに移行した『KOF』の14~15では二人ともシャツを着ている。

いずれも『ZERO』ナッシュの登場よりはあとに出てきた格好である。

洋画コマンドーの素肌ベスト

タクティカルベストは戦闘に必要な弾倉や手榴弾などを所持するための装備だそう。
いわば攻めのベスト。先述のバイマンも『DOA3』以降は徐々にタクティカルベスト寄りに変わっていった。
そっちの素肌ベストスタイルは1985年のアメリカ映画『コマンドー』で退役軍人のジョン・メイトリックスを演じるアーノルド・シュワルツェネッガーがやっていた。

この映画は日本でも有名かつ人気だった。
ひょっとすると軍人≒袖なしのジャケットorベストの連想は『コマンドー』の影響が強かったのかもしれない。
いまだ覚えている人たちはネット上に散見される。例えば令和の時代(2025年2月26日)になっても返信欄で話題になったポスト

シュワちゃんオマージュか、それとも

シュワちゃんの衣装は武器がたくさんぶら下がっていたからタクティカルベスト扱いした。
しかしベストの生地に厚みがあって襟で首の周りを覆う部分はフラックベストに近いデザインのような気もする。
武器offバージョンな写真のあるサイト→【解説】映画『コマンドー』「シュワルツェネッガーそのもの」を味わう倒錯と至福の90分 :4ページ目|CINEMORE(シネモア)

リンクを貼った映画解説サイトを見ればわかる通り、『コマンドー』の主人公はムキムキマッチョマンである。
俳優のアーノルド・シュワルツェネッガーの名前だけでも筋肉ゴリモリだと想像がつく人は多いと思う。筋肉芸人の中山きんに君氏の持ちネタにも名前が出る。

ナッシュもマッチョな軍人。
シュワちゃんにあやかってシャツ無しのベスト姿という、90年代当時の他社の軍人キャラはやらなかったワイルドな着こなしをしたのだろうか。
他に似たファッションのゲームキャラがいなかったら、そう思えた。

コナミのパーツ単位そっくりさん

わしが一人で「ナッシュってこのキャラと似てない?」と見つけてきたやつがこの作品。↓

バイオレントストームのポスター

マイナーゲームの北米版ポスター。知ってる人がいたらかなりスゴイです。

この3人の中で注目してほしいのが緑色な服を着た黒髪の男性。次点が青色の服で前髪の長い金髪男性
赤髪のサングラス男性は今の話題になにも関係ありません。

画像元のゲーム説明

前項のポスターの英文にも書いてあるように、このゲームの名前は『バイオレントストーム』。
1993年にコナミがリリースした、コナミ最後のベルトスクロールアクションゲーム。
同じコナミのベルスクゲーの『クライムファイターズ』および『クライムファイターズ2』の意匠を受け継ぐ関連作品でもあるそう。
その2作と違って『バイオレントストーム』はキャラグラが大きく、『ファイナルファイト』のようなゲームと言われる。
ストーリーも仲間の女性が悪者集団に攫われたので助けに行くという『ファイナルファイト』と同じ展開。

知る人ぞ知るアーケード専用ゲーム

このゲームは家庭用移植版がない。
アーケードの出回りが悪いせいで移植をしても儲けにならないと判断されたのだろうか。

1993年はベルスクゲーがいろいろ出ていた。本作はその波に埋もれていった模様。
おまけに格闘ゲームブームに火が点いていた時期でもあった。
凡庸(に見える)ベルスクゲーはなおのことゲーセンに置いてもらえなかったんじゃなかろうか。

作品の評価は一長一短。
ダッシュ攻撃等のスピーディーな闘いができるところは爽快感が出たものの、敵の攻撃モーションの予備動作がうまく表現されてなくて攻撃を避けられない理不尽感があんまり、な評価がわしは気になった。
知名度こそ低いが良作判定されている。SFC移植でもあれば人気が出たかもわかりません。

コナミとカプコンの関係性

元コナミの社員がカプコンの立ち上げメンバーにいた。
そのせいなのか、両者のゲームは雰囲気の似ているものが多かったようにわしは感じている。

コナミは『グラディウス』等のシューティングゲームが有名。
カプコンも創業初期はシューティングゲームを売りにしていた。『バルガス』や『1942』など。
軍人を主人公にしたアクションシューティングゲームの『魂斗羅』(コナミ、1987年)に対する『戦場の狼』(カプコン、1985年)もあった。

それと今では格闘ゲームといえばカプコン、といったイメージが確立しているが、初代『ストリートファイター』(1987年)以前にコナミが格ゲーを作っていた。
1985年の『イー・アル・カンフー』が格ゲーの草分け的存在だそう。ただしCOM戦のみで対人機能なし。

個人的な一例だとわしは『メタルギア』シリーズをカプコンのゲームだと思い違いしていた時期があった。それはどうでもええか。

バイオレントストームを意識した可能性

似たゲームを作る相手は客を奪い合うライバルになりうる。
結果論で『バイオレントストーム』がマイナーゲームに終わったといえど、1993年にカプコンは『ファイナルファイト2』をリリースしていた。
当時はシリーズを続ける気のあった『ファイナルファイト』にコナミのゲームが被せてきた。カプコンにとって無視できない一作だったんじゃなかろうか。

1995年に発売された『ファイナルファイト タフ』には『バイオレントストーム』(だけじゃないけど)にもあったダッシュ攻撃が追加されたのを見ると、影響あるかも? とわしは思っている。

カイルの緑ベスト+認識票的なタグ

『バイオレントストーム』内で使われるドット絵を必要な部分だけ貼り付ける。

バイオレントストームのカイル

黒髪で緑ベストの男性の名前はカイル。性能はスピードタイプでいわゆるガイなキャラ。
このカイル、素肌に直接ベストを着ている。どっかで見た着方ですね。
さらに彼の首から下げているアクセサリー。銀色の板状のものが二つ。なんかドッグタグっぽいですね。

ナッシュのタグとベストの色

『ZERO』のナッシュはドッグタグを首に下げていた。Ⅴでは持ち歩いていて身に着けず。
タグ的なものを首にかけるデザインがカイルと似ているといっても、そういう装飾品自体はありふれている。
パクリの疑いがかかりそうなのは類似例のとぼしい裸ベストの部分である。

裸ベストに固有のデザインやら使用権があるわけではないので、これぐらいで訴えられはしないはず。
それにしても胴体部分はよく似ている。
こういう既出のキャラがいると制作者が知っていたら、ナッシュに緑色のベストは着させにくかったんでなかろうか。

ちなみにこのカイルにはサマーソルトキックな攻撃技がある。そこもナッシュと被るところ。
ただしカイルのサマソは普通にガイルと同じく正面から蹴り上げる。踵から入るのはナッシュだけ。

ウェイドの前髪+胸襟

前項のカイル同様にドットグラを貼り付け。

バイオレントストームのウェイド

青い服の金髪男性の名前はウェイド。このゲームにおけるコーディーのような存在。
長い前髪が花京院チックでありそこがナッシュと似ている……が、問題提起する部位はそこでない。
彼の首の周りから胸元を見てみよう。立ち気味の上襟と、ムキムキな大胸筋の左右には折り返った下襟がある。
こういった襟のデザインに近い服を着たナッシュ絵もあった。

ZEROナッシュの私服の襟

『ZERO』でBENGUS氏が描いていた休暇中なナッシュの絵を貼る。SS版『ZERO2』にも収録されていた。
前記事追加情報―誌面におけるナッシュの美形言及の色男3人組絵でカットした部分にあった絵でもある。
ゲーメストムック Vol.17 『カプコンイラストレーションズ カプコンイラスト作品集』によるとBENGUS氏はこのナッシュ絵を描き直したかったそう。なので素人目にもテキトーに描かれた部分はカットして掲載。

ストリートファイターZEROの私服ナッシュ絵

アゴが大きい……の話は過去記事のナッシュの美形設定の有無でやったのでいいとして、この私服の襟
ウェイドの上襟と下襟になんだか形が似ている。
『ZERO』のベストも片側だけウェイドの下襟に近い形のパーツがある。省略されることもあるが『ストⅤ』のZERO衣装には付いていた。
カイルの裸ベスト+タグがナッシュと被る、という情報を知ったうえでウェイドを見ると、ナッシュの襟のデザインもなんか怪しいと感じてこないだろうか?

ところでBENGUS氏が描き直したかった部分がナッシュの顔部分だとしたらわしの配慮はなんも意味ないっすね

まとめ

ナッシュのベストに近しいデザインの軍人キャラは複数いた。
そういったベストの軍需品が現実にもあり、似たようなベストを着るシュワちゃん主演の映画が人気を誇る時代があった。
映画が有名だった影響でゲームにおける軍人キャラにもベスト着用なデザインが採用された可能性がある。

それとはべつに、『ZERO』期のナッシュの服装には『バイオレントストーム』のキャラクターと通じるデザインが含まれた。
コナミが『ファイナルファイト』をパクってきたならこちらももっとクールにして見返す、といったクリエイター魂の応酬があったのか,
それともデザイナーさんの記憶に残っていたキャラデザがふと表れたのか,
はたまたガイルにとってのシュトロハイムな結果なのか。今となってはもはやわからない。

カイルカラーなナッシュ

アニメ『ストリートファイターUSA』にはブランカと悪魔合体したナッシュが登場する。
カルロス・ブランカという名前で愛称チャーリーの、正確にはナッシュと呼ばれないキャラ。
人体実験により緑色な体の怪物(=従来のブランカ姿)になったチャーリーが、アニメの途中でもとの姿にもどるシーンがあるという。わしはまだ未視聴。
そのときの姿がこれだそう↓

ストリートファイターUSAの元の姿のナッシュ(チャーリー)

おおまかには『ZERO』のナッシュな姿かたち。前髪のボリュームは控えめ。
しかし黒い髪かつ緑色のベストを着ている。ちょっと紫の差し色も入るが大部分は緑のベスト。
あれ? どこかでこの髪とベストのカラーリングを見ましたね?
そう、『バイオレントストーム』のカイルと同じ配色なのである。
これは偶然なのか? 原型から変えていくうちにたまたま似たシュトロハイムと同じなのか?
それとも答え合わせなのか?
真相は深淵の中である。制作者に聞いたらわかりそうだけどだれも聞くことはないでしょう、こんなこと。

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