AIが混同したナッシュとジョジョのDIO―画像生成編
AIが混同したナッシュとジョジョのDIO―Google編の続き。
2022年にわしが見たGoogleの画像検索(Googleレンズ)の結果に、『ガンスパイク』のナッシュと『ジョジョの奇妙な冒険』のDIOが似ている画像として扱われたことがあった。
今回は2024年5月にわしが挑戦していた、画像生成AIで起きたことをつづる。
頓挫したLoRA作り
LoRA (Low-Rank Adaptation)は、AIモデルの学習を効率化し、特定のタスクやスタイルに素早く適応させるための技術
そんなふうにGoogleのAIが説明する、画像生成AIで使われるLoRAという技術。
これはAIでイラストを作りたいとき、普通にプロンプト(俗に詠唱と呼ばれる指示文章)を入力するだけでは再現しにくい特徴を、ピンポイントで描かせるために使う。
春麗でLoRAの解説
プロンプトで「Chun-li」と書くと大抵のAIイラストサイトで春麗らしい絵は出る。
これは公式絵もファンアートも豊富なキャラだからできること。『ストⅢ』のNPCのエフィーのような、ネットに出回る絵が少ないキャラだと再現はムリ。
しかし「Chun-li」と入力するだけではヒラヒラのチャイナドレス姿ばかりが描かれ、ジャージ風な『ZERO』衣装が出てくることはあまりない。
ZEROコス春麗をAIに描かせたい、となったら方法は二つある。
詳細なプロンプトを書くか、ZEROコス春麗の画像を機械に学ばせるか。
後者の手段がLoRAである。
dio brandoタグ
わしはナッシュでもLoRAが作れるんかなーと思って試したことがある。
結局、途中でやめてしまったのだが、その過程でDIOの名を見ることになった。
次の画像はSeaArt AIという生成AIサイトでLoRA作りに初挑戦した際、学習元の画像についたタグの一覧である。
冒頭の数個のタグはわしがLoRAの仕組みをよくわからないままつけた。たしか2行目まではわしの命名タグ。
3行目以降のタグはAIがつけたもの。
機械が自動認識したタグの中に「dio brando」があった。画像中にはページ内検索の痕跡で「dio」の部分だけ背景色が変わっている。
このタグは『ジョジョ』の名悪役ディオ・ブランドーの英名にあたる。
AIはDIOと認識した。Googleに続いて二度目の現象だった。
なおDIOタグのついた上記のナッシュ絵は『ZERO1』の公式絵。黒いインナーは着ていない。
肌着の有無ではDIOかどうか判別してないようだ。
謎のイヤリング判定
DIOタグの右隣りに「earrings」タグがある。耳飾りのこと。
ナッシュの耳には眼鏡のつるが掛かる以外に装飾品がない。つまりAIの誤判定である。
ただ、もしかしたらこのタグを誘因する要素はあるのかもしれない。
それは第三部のDIOがイヤリングをつけていること。
だからDIOと判定できうる絵=イヤリングも描かれているはず、という図式をAIが作っている線もある。
ほかに、DIO判定なしでイヤリングタグが付く絵が2枚あった。
これは眼鏡をかけていることがなんらかの耳飾りとしてAIが認識するのか、はたまた遠回しなDIO判定の一種なのか。そのへんは判断がつかない。
花京院は無関係?
ナッシュの前髪のモデルになった花京院も耳飾りをつけている。
たぶんそっちはナッシュのイヤリングタグと関係なさげ。
根拠は花京院のヘアカラーに使われる赤~ピンク色な部分がナッシュにないのと、AIは花京院をウェーブのかかった髪で認識していたこと。
両者の色と髪質が異なるため、機械は似た者同士だとは学んでいなさそう。
制作者は似させたらしいものの、機械がわかる形で表れていない気がする。
あるかもしれない自前でタグを付けた疑惑
疑り深い人はこう考えるかもしれない。
「DIOのタグはAIがつけたんじゃなくて、最初からアンタがつけたんじゃないか」と。
正味、わしはこの疑惑をなくす証明ができない。
いちおう、注意深くスクショ画像を見れば<この画像のタグ>の一覧にはタグのアルファベット順に並ぶ箇所とそうでない箇所がある。
そのうちわしがつけたタグはアルファベット順がグチャグチャであり、AIがつけたタグは数字始まりでアルファベット順に並んでいるという差はある。
しかしAIの規則性を知ったうえで仕込んだ、と指摘されればこれも抗弁の手立てがない気がする。
疑惑の払拭にはLoRA制作
万一、そこまで疑う人がいたならこうしよう、あなたもナッシュのLoRAを作ってみなさい。
AIがつけてきたタグをその眼で見て、「dio brando」があるか確かめるのである。それしかない。
ちなみにわしが使った画像でDIO判定をもらったのは2枚だけ。
すでに貼ったスクショ画像の絵と、その後トレーニングを重ねたときに追加したUDONアートの絵。出版物としてはUdon's Art of Capcomに所蔵。
ⅡキャラとZEROキャラ集合絵にナッシュも描かれた。
本だとナッシュ部分がページをまたぐというか折れ曲がっている。参考画像の載るブログ記事→カプコンへのリスペクトに溢れた快作 画集『Udon's Art of Capcom』レビュー
絵を描いた本人がDeviantArtで同じ絵を公開中→STREET FIGHTER - STREET JAM
ネットにある全体画像からナッシュ部分だけ切り取ったのがこれ↓学習時は背景を無しにします。
作者はAlvin Leeという、一時期はカプコンのゲームの絵を担当していたイラストレーター。
2008年発売の『Super Street Fighter II Turbo HD Remix』の顔アイコンはこの方の絵という噂あり。キャミィと負け顔ガイルのゲーム画面が掲載されるページ→Game Dudeの「大人のための海外ゲームレポート」 「Super Street Fighter II Turbo HD Remix」
具体的なDIO成分は不明
肝心の絵は他のナッシュ絵と比べてなにがどうDIOっぽいのかよくわからない。
前述の『ZERO1』絵との類似点はナッシュが向かって右を向いていることぐらい。
とりあえずわかっていることはDIO判定が出る確率は低いこと。
合計29枚のナッシュ画像を使っての2つ。当たり率は1割もない。
しかもわしのLoRA挑戦は去年5月にやったっきり。
今はAIの性能が進化して、DIO判定は出ないかもしれない。Googleでナッシュの画像を検索してもDIOが出てこなくなったのと同じ理屈で。
余談:AIが描くナッシュについて
画像生成AIで春麗の名前をプロンプトに書くと春麗らしい絵が出ると述べた。
じゃあナッシュはどうか? というとわしの経験上、だいたいはなにも反映されない。
下手したら女性で描かれるときもあった。
「charlie」は女性の愛称にも使われる名前なせいだろうか。米軍宣伝映画な初代『トップガン』のヒロインも本名はシャーロット(Charlotte)で作中は「チャーリー」と呼ばれていた。
あとは単純に、性別を指定しなかったら女性として描かれやすいAI独自の傾向のせいかも。
花京院典明をAIで描いたら花京院っぽい仕上がりなのに乳が生えてることもあった。これじゃ従妹の涼子ちゃんによる典明お従兄ちゃんコスプレじゃないかとわしは思った。
割合マイナー寄りなキャラでも多少反映されるとこだと、ツンツンした金髪のマッチョな青年でお出しされた。
眼鏡はぜんぜんかけない。前髪も特徴なし。
LoRAなしではナッシュっぽい絵は出てこないと思ったほうが確実。
現状ナッシュらしい絵を描く手段なし
効果が薄いとわかっていてもプロンプトを使うとしたら、「Charlie_Nash」とフルネームでやってみよう。
ネット上の画像が増えればそのうちナッシュぽく描かれる可能性もゼロでない。増える見込みあるのかって? わしにもわからん……
詳細なプロンプトを書いて再現する、という力業もナッシュの前髪が特殊すぎて不可能な状況。
ピョコーンと飛び出た前髪は漫画によくあるものの、それを指し示すワードが特に決まっていないようである。
なおナッシュのLoRAは現在だれも公開していない。検索してもヒットしない。
やっぱり人気ないのだろうか。バルログ(※「Vega」名義)は複数あるのに。
ナッシュは出番が多くないわりに『ZERO』と『ガンスパイク』と『ストⅤ』みんな違う姿なせいで学習素材がちゃんと集まらないのだろうか? でも公式素材が少ないユーニ&ユーリのLoRAもあるからやる人がいないだけ?
わしはすでにLoRA作りを断念した身なのでもう知らん分野である。
断念理由ー画風の傾向がnot for me
ちゃんとLoRAを作りこんだものを使ったら違うのだろうけれど、一つ思う。
AIが描いた男性キャラってホモくさくない?
画像集めに限界を感じるとかLoRA作りが難しいとかいう以上に、わしには合わなかった理由がそれ。
断りを入れておくと、わしはホモくさいものを作る人や機械を否定する気は毛頭ない。
その件についてはわしが深入りしないようにすればいいだけである。
いわゆるジブリでいうところの「サンは森で、私はタタラ場で暮らそう」のアシタカの精神で住み分けが大事だと常々思っている。
AIが嗅ぎ取ったBL要素
ゆうてナッシュがホモくささのないキャラか、というとどう表現していいやらわからない。
胸筋と腹筋もろ出しの変態ファッションだしこんな元ネタで健全な絵を期待するほうが間違っているとも言えそう。
実はナッシュのLoRA作り中にAIがつけたタグに「bara」というのがあった。不要だと思って消してしまったが。
このワードを見た最初「『ハンター×ハンター』の敵脇役のバラ? ビスケに一定の強さは認められた男?」とわしは考えた。
しかしバラは黒髪のサラサラヘアーで特別マッチョとも長身とも言えない普通体型の男性。ナッシュとはカスリもしない。
どうやら「bara」は海外におけるBLの言い換えのようなワードなんだそう。詳細は知らない。
この属性はおそらくDIOと違って薄れる理由がない。今からでもナッシュのLoRA作り中に確認できると思う。
変な目で見られない存在
わしも薄々、勘づいていたことがある。
きっとナッシュは美形由来のBL需要とマッチョ由来のゲイ需要もあるんだと。
そういうベン図を描いて説明することもできそうな気はする。やらないが。
わしが求めるナッシュはそういうやつじゃないんだ。わしにとってのアンパンマンなんだ。
アンパンマンをそういう目で見る上級者も世の中にいるかもしれないが、わしはそうじゃない。
だから男女ともにお色気路線に仕上がりがちなAIイラストでナッシュを描こうとは思わなくなった。
手隙になれば再挑戦も可
とはいえ学習次第で画風は変えられる。
やりたいことの案が尽きかけたときにわしはまたLoRA作りを再開するかもしれない。
ガンスパイクナッシュはAIでもないと新規絵はもう拝めなさそうなので。『TEPPEN』でも出なかったし(※まだ引きずる)。
『スト6』のスタンプで描かれたのがそれで最後だと思っている。
まとめ
AIの認識では時折ナッシュとDIOが近い外見に見えるようである。
今後AIの性能が向上していくにつれ、精細な違いがわかるようになれば、こういった誤判定はゼロに近付いていくことと思う。
その過渡期に運よく立ち会えたことをここに記録する。