ガンスパイクのバルログ―格ゲーのバルログとの関係 2025/7/7Posted B! P L スト6のガンスパイクなDLCと原作のキャラを一部解説で名前を出した、『スト6』のスタンプにいる黒いバルログ。 元ネタをよく知らない人は「こんな不気味な見た目のバルログがいたの?」とビックリするかもしれない。 原典の『ガンスパイク』の知名度が低いのを考慮し、この記事で重点的に解説する。 なお当記事は2025年1月に公開した記事を分割したものの後半にあたる。内容は前回からほぼ変わってないので既読の方はスルーも可。 ## 公式見解はいまだ不明 結論から先に述べる。 このマリリン・マンソン(※アメリカのミュージシャン)的なバルログはストシリーズのバルログと同じ人物なのか現状はっきりしていない。 ### ところどころ原作と違う箇所あり 細かいことを挙げれば『ガンスパイク』に登場する全キャラが原作とは違う人物になる。 その明確な例がキャミィ。 『ガンスパイク』の舞台は西暦20XX年。かつキャミィが21歳の設定。 一方で『スパⅡ』のキャミィは1974年生まれ。所有物に刻印された識別番号(CAMM 740106)を生年月日に置き換えたらそうなる、という背景が(『スパⅡ』ショートストーリー限定かもしれないが)あり、確定情報ではないものの生年の設定がある。 『スパⅡ』の設定に沿うとキャミィが21歳になるのは1995年。2000年台ではありえない。 だが、わしが言いたいのはそういうことではない。 #### 作り手の意図 制作者がこの*黒いバルログを『ガンスパイク』版のストシリーズのバルログとして制作したつもりがあったか*が注目点となる。 『ガンスパイク』のことを知らない人向けに簡単な補足をすると、『ガンスパイク』はカプコンがシューティングゲームを得意とした**彩京と共同開発**してできたゲーム。 他社と協力していたことを読者が知っている前提の話もするので記憶に留めておいてください。 ## 非バルログな根拠 長身で長髪でカギ爪を武器にする高露出な悪役サイドの男性という点ではストシリーズのバルログと共通する。 しかしながら本家のバルログとは異なる部分がある。 ### 海外名ではベガ表記でない ストシリーズのバルログは海外版だと「Vega」という名前になっている。 『ストⅡ』の四天王のうち『スト1』にすでに登場していたサガット以外は名前が入れかわった。 『ガンスパイク』に登場するキャラにも、日本と海外で使われる名前が異なる者がいる。 海外版である『Cannon Spike』ではナッシュの名前が「Charlie」,バレッタが「Baby Bonnie Hood」,ロックマンが「Megaman」に変更された。 いずれも原作の海外版での表記に則している。 しかしバルログの名前は「Balrog」のまま。 ストシリーズのバルログという扱いなら「Vega」と表記されたのではないか、という見方ができる。 ### 設定画での名称と武器 2001年出版の『カプコンデザインワークス』には『ガンスパイク』のイラストが掲載されたページがある。 その中の21ページにバルログの設定画があった。以下が切り抜き画像。ついでに敵キャラのキャットレディー・ビューティーのも一緒に載せる。 このバルログには「きもち悪いボス」とメモ書きされてある。おそらくキャラが確定するまでの暫定的な呼び名。 そして手の甲に固定された刃が両手に一本ずつ描かれる。カギ爪でない。 これらの描き方から考えると、キャラデザを発案した人は最初、ストシリーズのバルログとは違う敵を想定して描いていたんでなかろうか。 ### 敵役のデザインは彩京デザイナーの案 『ガンスパイク』の絵はおもに西村キヌ氏によって描かれた。一部べつのカプコン絵師も参加した。 キャラデザも西村キヌ氏の手によるものが多いのか、2012年出版の『ストリートファイターアートワークス極』では氏のイラストのページにキャミィとナッシュの設定画が載った。 しかし敵キャラのキャラデザに関しては別の人の担当だとうかがえる西村キヌ氏ご本人のコメントがある。出典は前項の画像と同じ『カプコンデザインワークス』かつ同じページ。 >猫女のポーズはラフのほうがいい感じでしたね。バルログは「マ○リン・マ○ソンっぽく」ということだったので、そのまんまです。スティングのキャラもほとんど彩京さん側のラフから変更してません。 猫女とは前項にオマケで画像掲載したビューティーのこと。 設定画には「変身女」と書かれる。その仮名の通りゲームでは戦闘の途中で変身する。 スティングは敵組織のリーダー。本当は前項の元画像の下に西村キヌ氏のイラストがあったが、今回は無用なのでカットした。 #### 西村キヌ氏のコメントから 少なくともキヌ氏が言及した敵役3人は彩京所属のデザイナーからのデザイン案があり、それをカプコン側のデザイナーがブラッシュアップした、ようにわしは解釈した。 カプコン外の人がキャラ案を出したとなると、カプコンのキャラをベースにした制作は*最初からそうやると決めたケースでないと難しそう*である。 他社版権キャラを権利者の了承なく作るわけにはいかないはず。 初めからバルログにするつもりがあった場合はキャラの名前に「バルログ」と書くと思う。 ## バルログと同一な根拠 『ガンスパイク』のバルログが格ゲーキャラたる仮面の貴公子のバルログと被る部分もある。 ### エスカプバルログと声優が同じ 『ガンスパイク』のスタッフロールにはキャラを演じた声優の名前が載るが、その人たちが具体的にどのキャラを担当したかの説明がない。 しかし外部の情報および作中の声の特徴によりほぼ判明している。 『ガンスパイク』バルログの声優は成金屋清富(なりきんや きよとみ)という人。 この声優は『SNK VS. CAPCOM SVC CHAOS』(エス・エヌ・ケイ バーサス カプコン エスブイシー カオス)(以下『エスカプ』)のバルログも担当した。 アーカイブのボズアトールのプロフィールページにて、演じたキャラクターボイスの一覧に”SNK vs CAPCOM CHAOS(バルログ、レッドアリーマー)”と”ガンスパイク(シバ、バルログ)”が確認できる。 #### SNKプレイモア製のクロスオーバー作品 『エスカプ』は2000年のゲーム『ガンスパイク』よりあとの2003年にリリースされた格闘ゲーム。 のちの2024年7月に移植版が発売された。SNK公式サイトによる紹介記事→SNKとCAPCOMの人気キャラクターたちが夢のコラボ! 2003年にアーケードで登場した格闘ゲーム『SVC CHAOS』が グレードアップして復活! 今もなお閲覧可能な2003年当時からある『エスカプ』公式サイトのページ下部の著作権表示に”一部株式会社カプコンの許諾を受けて、株式会社SNKプレイモアが製造・販売するものです。”とあるように、SNKプレイモアが主体となって制作した。 彩京と共同開発だった『ガンスパイク』とは違い、カプコンの手は入っていないらしい。 そのため、『エスカプ』の仕様は『エスカプ』独自のものと見なすこともできる。 カプコン側の認識はわからないとはいえ、『ガンスパイク』でバルログを演じた声を『エスカプ』のバルログにもあてたことは事実である。 SNKプレイモアは両者を同じ人物だと思って制作していたのだろうか。 ### ストⅤのガンスパ衣装でのセリフ 記事の序盤でチラッと触れた話を再びする。 『ストⅤ』にはキャミィとナッシュに『ガンスパイク』の格好をモデルにしたコスチュームがあった。 そのコスチュームを着た状態で特定の対戦キャラに勝つと勝利セリフが変わる仕様がある。 この二人がガンスパ衣装で『ストⅤ』のバルログに勝ったときも特別なセリフが用意された。 以下そのセリフを転記。バルログ以外へのセリフも知りたい人は別記事もどうぞ↓ もっと読むストⅤのガンスパイク衣装時の特殊セリフ+ZERO3 ◆キャミィ-対バルログ どうした……? 今日は爪を飛ばしてはこないのか? ◆ナッシュ-対バルログ いつぞやは世話になった。 もう爆発は勘弁願いたいものだな。 キャミィは『ガンスパイク』のバルログ独自の攻撃方法について言っており、ナッシュはおそらく自身の単独ENDで黒バルと一緒に爆発に巻き込まれるシーンのことを言っている。 『ガンスパイク』にもナッシュが可哀想な目に遭う展開がある。いつものことですなHAHAHA! ……ハァ……。 なにはともあれ、『ストⅤ』ではバルログを『ガンスパイク』のバルログと同一に見る演出があった。 バルログ側はセリフ変更がないため、二人からこういう接し方をされたらどんな反応を示すのかは謎。 ## スターシステムの一環か もろもろのことを考えてみるに、たぶん『ガンスパイク』制作当初は「きもち悪いボス」をオリジナルの敵役にするつもりがあった。 たまたまラフ案にはストシリーズのバルログに似た部分があったため、そこから武器を変更し、スターシステムのようにバルログの名をあてがった。 この場合のスターシステムは『ファイナルファンタジー』シリーズにおけるシドやビッグス&ウェッジと同じである。 用語の意味は、同一人物ではないが関連するシリーズの登場人物と同じ名前なり特徴を持つ人物を登場させること。 『ブレスオブァイア』シリーズの主人公リュウとヒロインのニーナもその系譜。 ### 徐々に同一視されるバルログ しかし『ガンスパイク』がリリースされたあとは両者のバルログが混同されつつある。 『スト6』の『ガンスパイク』のスタンプに選ばれたのも、制作者がストシリーズのバルログと関連させる気があるからかもしれない。 または奇妙なビジュアルにインパクトがあるからちょうど良かったのかもしれない。 配信するスタンプは*素直にかわいい絵だけで終わらせたくないという気概*をわしは感じた。その例が2023年12月配信のファイティングパス「ハッピーホリデー」。ザンギエフがちょっとかわいそうな感じ。 #### どう扱うかは制作者次第 ストシリーズのバルログに『ガンスパイク』のバルログ要素を盛り込むか否かは制作者の判断による。 ありそうなのはバルログのコスチュームに『ガンスパイク』バルログの衣装が追加されること。 あれもだいぶ攻めた露出の衣装だが、本家バルログにも似合う気はする。もとが半裸だから。 ただし完コピは歓迎されにくそうだと思う。 あの血色の悪い肌や眉のない広い額等の一般的な美から遠ざかる部分はクセが強い。 そのへんの要素は美男子のバルログが好きな既存のファン層からノーを突き付けられる恐れがある。バランス大事。 ##### 管理人は別人だと感じる 『ガンスパイク』は作中のセリフが非常に少ない。 プレイ中、戦闘前や後の会話は一切ない。せいぜい戦闘中にキャラが発するボイスがいくつかあるだけ。 バルログのセリフも少なく、人柄が多少伝わるのはナッシュ単独ENDを迎えたとき。 その喋り方がストシリーズのバルログとは違った。 セリフの一例がこう↓ >バルログ:「ヒョーォ!! 逃がさねぇぇー!ナーッシュ!!」 「ヒョーォ!!」は本家バルログも似たような掛け声を言う。 それ以外の言葉遣いは本家っぽくない。 ストシリーズのバルログは育ちのよろしい貴族なので「逃がさねぇぇー!」という荒々しい言い方はしないと思う。 人の名前の途中に「ッ」を入れる呼び方もしなさそう。 ENDの濃ゆい絵面もあって、わしは別人だと思う。 ちなみに『ガンスパイク』のキャミィの喋り方は『スパⅡ』に近い女口調。ナッシュは『ZERO』とだいたい同じ。それぞれの単独ENDで確認済みだが全セリフは確認できていない。 ## まとめ 『ガンスパイク』のバルログとストシリーズのバルログは、おそらくゲーム制作時は別人の認識で制作者が作っていた。 しかしその後、『ガンスパイク』制作者の手を離れたところでは同じ人物かのように扱われるようにもなった。 今後どうなるかはのちの作り手次第である。 ### 西村キヌ氏のポストを受けて 前回の記事(スト6のガンスパイクなDLCと原作のキャラを一部解説)に埋め込んだポストの話によると、シバは本当はオリキャラだけど名前は『ルースターズ』から貰った、という認識で西村キヌ氏は受け止めていたらしい。 黒いバルログについても、シバと同じやり方を敵キャラの一人にも適用したんでないかとわしは思う。 敵キャラ全部が出典なしの完全オリキャラなのもなんだから、といった感じで。 ガンスパイク関連話 カプコンのオールスターゲームなTEPPENのガンスパイクネタ AIが混同したナッシュとジョジョのDIO―Google編 Street Fighter #ガンスパイク #バルログ