9.SFC天外魔境ZERO【アドベントカレンダー2024】 2024/12/12 B! P L 『天外魔境ZERO』(てんがいまきょうゼロ)は、1995年12月22日に今はなきハドソンから発売されたスーパーファミコン用RPG。開発元はハドソンとレッドカンパニー。 ハドソンは自社が開発したゲーム機でソフトを発売することが多かった。今作は異例の、天外魔境シリーズ唯一のSFCソフト。 従来の天外魔境シリーズにあったボイスは一切ないが、40MbitロムカセットというSFCソフトでは大容量なほうのメディアで作られた。 そのうえで、特殊なチップによって数値以上(およそ72メガビット)のデータ量を搭載したといわれる力作。 ## ゲーム概要 舞台は6つの国(火熊国、孔雀国、鶴国、亀国、犬神国、竜王国)に分かれた太古のジパング。 各国は神獣に守護され、永遠の火の意思によって選ばれた火の一族の勇者が竜王国の王となり、全ての国を統治していた。 永遠の火に弟王が選ばれたことに不服を感じた兄王は、地獄門に600年封印されていたニニギに騙されて弟王を殺し、地獄門を開放する。 それによりニニギと地獄の軍団が解き放たれ、ジパングを掌握した。 地獄門が開いてから100日後、火熊国の火影村に住む12歳の少年のヒガンが新たに火の一族の勇者に選ばれ、ジパングを救う旅に出る。 ### パーソナル・ライブ・ゲーム・システム(PLGS) ゲームソフト内に時計とカレンダーを内蔵し、現実世界とゲーム内の時間が連動するシステム。 季節のイベントや時間限定のお店など、現実の時刻がゲームの世界に影響する。 この機能は本編のストーリーには影響がない。本筋を進めるだけなら気にしなくてよいオマケ……とはいえ今作を代表する画期的なシステム。 ### バトルシステム 一般的なターン制コマンドバトル。 しかしRPGでは魔法に相当する巻物と、特技や必殺技に相当する奥義の習得条件がやや変則的。 巻物は各地域にいる仙人から貰える。中には二つの巻物を組み合わせて効果を発揮するものもある。 奥義だとヒガンは仙人(でない人もいるが)と戦って勝利すると習得できる。スバルは特殊な宝箱を開けるか一定条件をクリアすると習得。テンジンとみずきはオーソドックスにレベルアップで習得。 ### その他の特徴 豊富なミニゲームがあるほか、リアルタイムでペットを飼育できる卵屋,女性NPCと仲良くなってレアアイテムを貰えたり家をあげたりする出会い茶屋もある。 また、特殊チップ内蔵による容量圧縮処理を活かし、鮮明なグラフィックやアニメーション演出をしたことがプレイヤーの目を引いた。 ## 印象深いシーンと事物 『天外魔境ZERO』のことを記事にしようとして、思い出したりプレイ動画を振り返ったりすると、忘れている箇所はところどころあった。 しかしプレイしてから何年も経っていてもまだ心に残っていることがある。 ### ヒスイとの出会いと別れ ヒスイは出会ったばかりのときに**もうすぐ死ぬと言い出す**火の妖精。 これは本当のことを言っている。まちがっても虚言癖とかメンヘラじゃないぞ! そういうのはももこという出会い茶屋の女性がやるよ! 20歳が寿命、かつ死ぬとまたべつの妖精が卵から孵るという短命な種族で、設定とキャラの儚げ美人な感じがマッチしていた。 20年生きるのが天寿なら仕方ない,それぐらいが限界な動物もリアルにいると諦めがつく。 しかし、2人旅していたのがまた1人旅になると心細さを感じた。 ヒスイの遺志を継ぐ妖精のスバルは底抜けに明るい性格なので加入後は寂しさが吹っ切れた。 ### 犬神国でのお金稼ぎ 金を採掘したり賭け事でお金をもうけたりできる。 金を入れるための袋に金を入れすぎると袋が破けて一定歩数で減っていき、ルーラ的な移動をすると全部なくなったことを覚えている。 荒稼ぎができる国に、所持金が一定数以下でないとストーリーを進行させてくれないNPCがいて、そのへんの意趣返しがまた印象的だった。 ### メリハリのある音楽 会話や登場人物を忘れていても、音楽はどれも耳が覚えていた。 地獄の隊長たちの被害を受けた村では穏やかだが物悲しい曲,ボス戦前後の不穏な曲,神獣が鎮座する場所の和を感じる神秘的な曲など。 その場の雰囲気にピッタリの曲が毎度流れていた。 わしはヒガンのライバル的存在のシラヌイのことをすっかり忘れていたのだが、その専用BGMはしっかり聞き覚えがあった。プレイヤーからはけっこう評判のいい曲らしい。 ### 開けられた玉手箱 作中に、プレイヤーが開けてはならないアイテムがある。玉手箱という、童話『浦島太郎』のアレである。 PLGSを活かしたアイテムであり、これを特定のNPCに渡すと前回の開封から経過した時間によってゲットできるアイテムが変わる。 一度アイテムをもらえたあともプレイヤー自身の手で玉手箱を開けてはならない。 しかしわしと同様にプレイしていた**兄者は開けた。わしのセーブデータで**。 兄はきっと、開けてどんなことが起きるか確かめてから、リセットすればOKと思ったのだろう。**リセットしても玉手箱を開けたことになっていた**。 ひとたび玉手箱を開けた実績がついてしまうと、その後はNPCを仲介してのアイテムゲットはなくなる。 後日兄から直接の謝罪があった。玉手箱を開けちゃったと。 わしはこの謝罪を受け入れた。そもそも**大したアイテムをもらってなかった**のでそれはどうでもよかった。 ただ、自分のセーブデータでは試さないんだなぁとそこだけ引っかかった。 ### 深読み非推奨の茶屋の女性 アキナという出会い茶屋の女性に家を買ってあげて、家で待つ彼女にウメこけしという贈答用アイテムを渡すと、白いアメ玉をもらえる。 白いアメ玉の売値は3750両。ウメこけしの買値は450両。差し引きで3300両の増額。 普通のアイテムとしての効果は味方単体の全ての状態異常を回復。同じ効果の店売りアイテム(ばんのう丸)は1000両かかるのでそれの代わりに使った場合も有用な物々交換になる。 当時のわしは攻略を楽に進める目的でこの女性と親しくなっていた。 アキナにウメこけしをプレゼントして喜ぶのを「こけしをお人形さんみたいにかわいがってるのかな」と純粋に思っていた。 ウメこけしの上位版のこけしが”カラクリこけし”なのも、変形ロボットのおもちゃのようなものだと思っていた。 大人になってから振り返ると**全年齢対象の作品に出すにはマズいブツだったんじゃないか**と気づいた。 なんのことか想像がつかない人はそれでいい。無理に知ろうとしなくていい。 ## 悪役の在り方―ジュリの言動 作中、数々の個性的な敵役が登場する。中でもだいぶクセが強いと感じたキャラを挙げる。 ジュリは亀国を樹海だらけにし、住民を木に変えもしたか、ストーリーの進行にあわせて道案内をしてくる。 また、当人の居城を進むときにも頻繁にあれこれ誘導してくる。 本人なりの親切なのかすべてイジワルの延長なのか、よくわからない悪人だった。 クイズの解答を全部不正解扱いしてくるところはイジワルだと思ったが、最初は探索できないルートかと思ったほうを行かせてくれて宝箱ゲットできるのはありがたい。スバルは怒ってたけど。 ### わかるようでわからない感性 ジュリが残忍なのは間違いない。立場的に裏切り者とはいえ妹を容赦なく殺した過去がある。 しかし頭に植物が生えて楽しんでる人たちを、どこか虚しいと表現とするのはわからなくもなかったし、楽しんでるのが気に食わないからと呪いに手を加えるわけでもない。 一方で体全体が木になって身動きが取れなくなった人を、なにもしなくてすむから幸せだと言い放つ。この呪いは頭に植物が生えた人たちの反応を見て反省したうえの行動だという。 全部がぜんぶイジワルでなく、本人は良かれと思ってやってるのか? とつかみどころがない。 ### おせっかい焼き? 倫理観が人間とまったく違う生き物なのだろうか。 ジュリはみずから殺した妹を妹の恋人の体に封じた。 恋人同士を出会えなくさせた手口をわしは残酷だと感じるけれど、やった本人は心からいいことだと思ってるのかもしれない。文字通りの一心同体になれたからと。 独自の善悪を持つことが悪者演出の一端になってる気もする。 誰がどう見ても非道なことばかりやるのではなく、押し付けだろうと善意が見えることもやってみせると、まことに理解し合えない異質な存在になるのかもわからない。 シラヌイはジュリを「ステキな性格」と表現したがきっと皮肉である。 ## 悪役の在り方―ニニギの高露出 ニニギはアグニの弟にして物語の発端となる悪の大親分。 地獄の王である彼の格好は**ほぼ裸マント**。 2024年のリメイク前の『ドラクエ3』の女戦士ぐらい攻めた格好だった。 大事なところは隠せているので全年齢対象のテイは保てるのだが、異様なファッションだ。 ニニギの手下の隊長たちは正体が異形ぞろいであり、その本性を現す怪物形態では服を着てない者が多かった。キンギンだけは最初から虎な獣人で本人は変身せず、ばいきんまんやDr.ワイリーのごとく機体を操縦する。 隊長たちの正体が化け物とはいえ、普段の人間に似た形態のうち布地が足りてない者は絶対レイドだけだった。 ### 地獄の隊長のファッション 絶対レイドは体の表面が青くなっている氷使い。 偶然確認できたイラストを見ると、腕と太ももが氷のように硬く角ばった質感で描かれてあった。該当のポスト→https://x.com/Bo_deWindt/status/1082082804702142464/photo/1 氷の素肌を見せることが氷の怪物らしさの表現になっていた。ゲーム内のドット絵は小さくて再現しきれてなかったけれど。 レイドの高露出には意図がこめられていたようにわしは感じる。 そもそも彼は**暖かさとは無縁な氷の化け物**かつ活動拠点を氷漬けにしていた。自身の体熱(※おそらく摂氏マイナス℃)を保護する服をまとう動機があんまりないのかもしれない。 長いマントは羽織っており、戦闘時の待機グラフィックではマントで全身を隠してくる。そこんとこは紳士。 地獄の軍団の中には現地の一般人を装う者がいる。その場合は現地人らしい格好に変える理由はある。 だが、ほとんどの地獄の者は最初から身分を明かしていた。 そしてレイド以外の隊長格はニセの隊長も含めて服を着こんでいた。 服を着ないのが地獄のトレンドというわけではないらしい。 ### 最終決戦時の姿 ニニギの最終形態では顔のほかに胸や腹にも赤い目が開かれる。地獄門の暗がりからしばしば赤い目が三つのぞいたのと同様、不気味な目である。 そのおどろおどろしい姿を見せつけるには服が邪魔になる。 しかし隊長たちのように**変身するときに服を脱げばよい**のであって、普段から裸族な格好でいる理由付けにはなりにくい。 一応、ずっと半裸でいることでプレイヤーに伝わる伏線になったものはあった。 胸に横線が引かれたような模様が、最終形態のときには目の部分になっていた。ただの乳首隠しのデザインではなかったのだ。 ろくに服を着てないのは最終形態の前振りのためなのだろうか? でも股間がスースーしそうな下半身のほうは説明がつかない。 わしが思うに、ニニギは作中もっとも突出した悪役である。作中最大の悪である。 常識離れした悪なことを見た目で主張するために、常人はしない露出過多な姿になったのではなかろうか? ### 露出過多→悪役、の変換 わしは一時期、『ストリートファイターZERO』のナッシュを悪役かと疑ったことがあった。その記事はこちら→ZERO2プレイ時の印象から受けた間違ったナッシュ像 ナッシュをご存知ない方にむけて文字で説明すると、彼はガイルの親友な軍人男性であり、上半身裸に直接ノースリーブのダウンジャケット的な上着を着ている。 上着の前を閉じないうえに肌着を着てないのでゴリモリの腹筋やら胸筋が丸見え。 普通の人は毛頭やらない格好である。 映画『名探偵ピカチュウ』の主役のピカチュウなら「**ジャケットはいいからシャツ着ろよ**」とでも言いそうなファッションだ。本元の映画でそういったツッコミを受ける相手がおり、それは主人公たちと対戦する半裸コート男なリザードン使い。 #### 刷り込まれた?悪の象徴 並大抵の人はしなさそうな肌の露出が、悪役の属性を強めるとわしは前から感じている。 その感性を育てた一因がこのニニギ。 というより最大の原因かもしれない。 さっきリンクしたナッシュ記事には露出過多な男性悪役の事例を出している。 そこで『女神転生Ⅱ』のダークヒーローを挙げているが、実はこれはのちのち知った情報。 ナッシュを知る前に見ていた露出過剰男性悪役は**ニニギだけ**のような気がする。 先に紹介したブログ記事にはニニギの名前はない。これは記事公開時に『天外魔境ZERO』のことが思い出せていなかったからである。 この忘れっぷりについては天外魔境シリーズの愛好家に申し訳なく感じる。 言い換えれば**変態ファッションの例**にキャラ名を出す行為が果たしてファン感情として喜ばしいかはわからないが。 ## 続編はあるが・・・ 『天外魔境ZERO』ののちに1997年に『天外魔境 第四の黙示録』,2003年に『オリエンタルブルー 青の天外』,2005年に『天外魔境III NAMIDA』と発売された。 しかし制作会社ハドソンが提携していた銀行が破綻したのをきっかけに経営が厳しくなり、コナミの子会社化したのちに2012年に吸収合併されて消滅。ハドソンはもう存在しない。 おそらくハドソンの生み出したIPはコナミが所有しているのだろうが、天外シリーズは音沙汰無し。『ボンバーマン』や『桃鉄』は新作が出てるんだけどなぁ。 たぶんRPGゆえに世界観やシナリオの雰囲気を再現するハードルが高い。今後シリーズ新作が出ることはないと思われる。 『天外魔境ZERO』はSFCなのでニンテンドーオンラインのゲームに配信されそうでいて、実際は絶望的。 PLGSとの兼ね合いがきっとややこしい。もともとゲーム内で設定できる日付も2014年までだそう。 今後のプレイは難しそうだ。そこは割り切って、西洋風RPGが多い中に東洋を舞台にしたRPG作品もあったことを読者の心にとどめてもらえたらありがたいと存じる。 ゲーム #RPG #アドカレ2024