ナッシュのインテリらしい設定&描写と誤認について 2025/10/11Posted B! P L 前回の記事では『ストリートファイターZERO2』のナッシュステージに現れる戦闘機についてAIに訊いた話をした。 前の記事【AI話】ChatGPTにZERO2ナッシュステージの戦闘機の種類を尋ねた結果 今回は例の戦闘機をハリアーだと説明した海外サイトの、微妙に間違っている説明について一つ載せる。 ## TV TropesのZEROキャラ紹介文 次の英語圏のサイトには『ストリートファイターZERO』でシリーズ参戦した格闘家の紹介がある。 Characters in Street Fighter Alpha - TV Tropes 各キャラ名をクリックorタップすると本文が表示される仕組み。 折りたたみの中にはけっこうな長文の説明が載る。 非常に参考になると思うものの、一部の記録は正しくない。 該当箇所が以下の文章。ナッシュの説明文。 >Badass Bookworm: A college graduate with a major in biology. One of his win poses has him pull a book out of his vest and start reading. この英文を日本語に訳すと、 >本の虫: 大卒で生物学を専攻。勝利ポーズのひとつに、ベストから本を取り出して読み始めるというものがある。 生物学専攻は『ALL ABOUT』シリーズ(の『ZERO』と『ZERO3』)に載っていた設定なので合っている。 しかし本を出す勝利ポーズは存在しない。 ### 実際に有るポーズ 日本と海外でナッシュの勝利ポーズが違う話は聞かない。 おそらく書き手の見間違いである。 なにと見間違えるか、というと、たぶん『ZERO』ナッシュのハンカチを出して手をふくポーズ。 わしもプレイ当時はあのポーズを「ハンカチで眼鏡を拭いてる?」と思った程度にはよく見えていなかった。 当時のテレビ画面は現在よりずっと小さく、画質が粗かった。ドットがちょっと潰れていた。 だから見る人それぞれに脳内補正が掛かり、実物と違った姿に見えてもおかしくはなかったと思う。 #### ハンカチで手をふく言及と実動画 『ZERO2』ナッシュステージに現れる戦闘機がハリアーだと言及のある資料本(『ALL ABOUT』シリーズ)の中に、全キャラの勝利ポーズを紹介するページがある。 そのナッシュの部分は次の画像↓ 一番左側のポーズがハンカチを出す動き。本の説明↓ >ハンカチで手をふいて「フッ」 「フッ」と言う瞬間に前髪の先っぽが揺れる。 キザな感じの動作で、挑発ボタンを押した場合にもこのポーズをやる。 確認用に、勝利ポーズでハンカチを出す直前から再生するYoutubeの動画を貼る↓ この動画はタイトルに「Alpha」とつく、海外版のもの。 ゲーム内で表示されるナッシュの名前も「CHARLIE」で海外版の表記。 さきほど貼り付けた資料画像と比較することで、国内外でのドットのグラフィックに違いは無かった、という証明になるはず。 #### Ⅴも本は取り出さない 『ストⅤ』の勝利ポーズは一種類のみで、ナッシュの場合は眼鏡をいったん外してかけ直すポーズになっていた。 挑発のモーションもやることは似ていて、眼鏡を外したあとに空いている手で額を触り「来ないのか?」と言い、また眼鏡をかける。 本どころかハンカチも出さない。 ### 補足:厳密には大卒か不明 すごく細かいことを挙げる。 『ALL ABOUT』の資料にはナッシュに「大卒」という表現はなかった。 "アメリカ空軍に所属する前は、大学で生物学を研究していた。"(『ZERO』10ページ) "ときおりかけるダテ眼鏡がインテリな雰囲気をただよわせるのは、大学で生物学を研究していた過去によるところが大きいだろう"(『ZERO3』78ページ) 日本だと、学生時代に大学に所属する=中退した説明がないかぎり卒業した、という図式が成り立つ。ほとんどの学生が卒業するから。 一方でアメリカは(日本人からすると)気軽に休学や中退をする風潮がある。 じつに学生の約半数が中退するそう。 2011年のデータで古いけれど、国ごとの中退率をまとめたグラフが載るサイト↓ 図録▽大学退学率(中退率)の国際比較 この結果をまねく一因に、アメリカでは学費を集めたら復学する行為がカジュアルに行なわれている。 その学費が集まらなかったらフェードアウトしていくのも無理のない話。 #### 軍人なら卒業しやすい制度 行き(入学)はよいよい帰り(卒業)は恐い、的なアメリカの大学事情において、現在の日本には無い制度がある。 それは、卒業後の入隊を前提とする大学の予備役将校訓練課程(ROTC)という制度。 簡単に説明すると、軍人になるなら大学の学費を補助する仕組み。全額免除もあるとか。 日本にも学費無料の防衛大学校あるじゃん、と思う人もいるだろうが、それとは違う。 ぜんぜん*軍人を目指さない人も通う学部で学びながら、軍の訓練も受ける*、そんな二足の草鞋わらじを履くスタイルらしいのである。 ROTCは、陸軍・海軍・空軍それぞれが契約を結んだ大学(州立・私立)と協力して設置されるそう。 一部の大学でできることであって、アメリカの全大学が対象にはならない。 #### ROTCを経た実在の空軍の人 この取り組みは19世紀から始まったらしい。 ROTCを活用した実在の有名な軍人には、カーチス・エマーソン・ルメイという男性がいる。 1906年生まれで最終的な階級は空軍大将。大学では土木工学を専攻。 2025年時点の日本のWikipediaには専攻が載ってないうえ、オハイオ州立大学中退と書かれるが、ちゃんと卒業していたそう↓ B-29で日本を焦土にし、その日本から勲章をもらった「戦略爆撃の立役者」の意外な経歴(全文) | デイリー新潮 (英語)Biography profile: General Curtis E. LeMay - Nuclear Companion: A nuclear guide to the cold war 20世紀初頭に生まれた人が受けられた制度である。 ガイルの年齢(1960年生まれ)から考えて、1980年あたりに大学にいたであろうナッシュも余裕で活用できる。 #### 生物学を学べて空軍将校に就ける大学 二つまえの項目でチラっと書いたとおり、陸海空の軍隊それぞれの訓練課程がある。 空軍の場合はその名のとおり、空軍予備役将校訓練課程(AFROTC)。 それが設置されている+生物学を学べる大学が実際にあるか調べたら、二つ見つかった。 バージニア工科大学とテキサス大学アーリントン校だそう。他にも探せばきっとある。 ##### ゲームに無関係な事項 こんなにゲーム外の情報を総ざらいしておいてなんだけれど、ナッシュはどういう過程で大学に通ったのかは、たぶん公式サイドが想定していない。 いちおう現実に照らし合わせてみると、生物学の学部を卒業した空軍の人は特別めずらしくはなさそうである。 べつにROTCを使わなくとも、普通に大学へ行ったあとから軍に入隊するコースもありえる。 そのへんのナッシュの経歴はおそらく明かされる機会がない。ゲームの面白さと完全に無縁でどうでもいい。 ## 背景キャラで本を読むシーンはあり 『ZERO』およびⅤのナッシュが対戦勝利時に本を取り出す動作はない。 しかしゲーム内で本を読むしぐさが見られるときはあった。 『マブスト』の庭園(Showdown In The Park)のステージ背景の左側に、小さく映る。 その背景動画↓ 開幕でダンの「余裕ッス」が入ってくるが気になさらずに。 本当はなにかのタイミングで背景のナッシュが正面を向く動きもあるが、この動画では見られず。 グラフィックは小さいものの、本のページをめくる様子は確認できる。 なお、隠しキャラのシャドウが闘う場合は背景のナッシュがいなくなる。同一人物という演出らしい。 ### かつてのシークレットファイル 90年代の一時期、カプコンは自社ゲームをテーマにしたシークレットファイルを発行していた。非売品。 その一覧がまとまったサイト↓ カプコン シークレットファイル 一覧 シークレットファイルの10番目『ストリートファイターⅢ -NEW GENERATION-』には『ウォーリーをさがせ』テイストな全キャラ集合絵があった。 ストシリーズのⅠ,スパⅡX,ZERO2,Ⅲと『ファイナルファイト』のキャラがいる。作品違いの同一キャラも描かれる。 そのナッシュ部分を切り取り↓ このナッシュも本を読んでいたらしい。 わしの見立てでは、どうも寝そべっていた状態から起きた直後な感じがする。 画像下のほうの、ZEROベガが豪鬼にボコボコにされる数秒前なのと連動しているのかもしれない。不穏な空気を感じとった? ナッシュはどうなのか情報が足りないが、画像右下のユンはビックリマークを、左側にいる元は「・・・」というフキダシを出しながらベガの行く末を見守っている状態。 あと画像左側ではⅡベガがすでに豪鬼にボコされたらしい様子が描かれる。ボスキャラの威厳が失墜しそうだけれど『スパⅡX』で本当に豪鬼に瞬殺されたからしかたない。 #### 脇道解説:ZERO3がないころのZEROキャミィ 切り取った画像内にはドールズ時代の水色レオタードなキャミィもいる。 この集合絵は初代『ストⅢ』(1997年2月リリース)までのキャラが描かれた。 『ストⅢセカンド』(1997年10月リリース)の追加キャラは無し。 なのに、なんで『ZERO3』(1998年7月リリース)のキャラがいるの? と混乱する人もいるかもしれない。 『スト6』で新規層が急増した今、もはや『ZERO』シリーズを知るプレイヤー率は高くなかろうが、一応はいると想定して話を進める。 このキャミィは初登場の仕方が特殊で、『マブスト』の前作にあたる『Xスト』(1996年9月リリース)で参戦していた。 その後は『ZERO2'』(『ストリートファイターコレクション』に収録、SS版が1997年9月発売)に逆輸入された。 この2作と『ZERO3』の知名度をくらべると『ZERO3』のほうが有名。 一見するとZEROキャミィは『ZERO3』追加キャラっぽいけれど、実はそうでない。フライング『ZERO3』キャラ。 ### インテリ推しな小道具 『マブスト』の背景と『ストⅢ』の小冊子の二つで、ナッシュは本を持つ姿をチョイスされていた。 『ZERO』シリーズ全盛期なころのナッシュには読書家なイメージが公式にもあったようである。 そういう演出を知ったうえで『ZERO』の勝利ポーズを見たら、本を取り出しているふうに見えるのも気持ちはわかるような気がする。 他にも読書シーンを描いた公式ナッシュ絵はあるのかな? わしは見つけられていない。 BENGUS氏による私服ナッシュの絵では本を持っていたけれど、あれはお酒好き要素のほうが濃く出ていた感じがする。 #### 余話:本持ちのイングリッド なにげに『ZERO3↑↑』のイングリッドと『スト6』イングリッドも本を読む姿が描かれた。 外伝作の背景&おふざけ要素のある集合絵のナッシュと違って、公式絵師が一枚絵としてしっかり描いたイラストでの描写である。 あれはどういう意図があるのか、イングリッドというキャラ自体がいまだ不透明なためよくわからない。 両作品で本の装丁デザインが共通していることから、同一の本らしい。 もしかしたら読書家な表現というよりは、あの本にイングリッドのパーソナリティに関わるなにかが書いてあるのかもしれない。 『スト6』で深掘りされるのかな。 ## まとめ 海外サイトの文章量の多いナッシュ説明文の中に、事実と異なる勝利ポーズのことが書かれた。 おそらくは本来ハンカチを取り出す動作を、本を取り出すと説明してある。 そういった誤認は当時の機器の性能限界により起こりえた。 誤った見方と同質の公式描写(ナッシュが本を読む)は2~3点確認済み。 見間違え方と公式解釈に大きな差はなく、それもまた勘違いが修正されない要因でもありそう。 結論は*なにかを発表するときは当然の知識だと思うものでも一度は調べてみよう*ということ。 まちがって覚えていることは多々ある。 全部を疑ってかかるのは時間がかかりすぎてムリがあるけれど、「そこを間違ったらおしまいだ」という肝心かなめな部分は何度も確かめたほうが無難。自戒を込めて。 あわせて読みたい 電撃ホビーウェブが紹介するZERO3ナッシュのフィギュア ナッシュのシュワちゃん成分と戦闘機のハリアー 【AI話】ChatGPTにZERO2ナッシュステージの戦闘機の種類を尋ねた結果 Street Fighter #ナッシュ #資料引用